ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社は、2025年の第2四半期(4月~6月)に、米医療保険最大手UnitedHealth Group Inc. (Ticker : UNH)の株式を新たに購入しました。
購入額は、約15億7000万ドルから16億ドル(約2400億円以上)に相当し、この取引は、バークシャー・ハサウェイの同四半期における新規の大型投資案件として注目されています。
本記事では、UNHの2025年第2四半期の業績をもとにビジネスモデルや競争力を評価します。
UnitedHealth Group Inc. の2025年第2四半期決算
UNHの2025年第2四半期決算は、堅調な売上成長と深刻な利益性圧迫という、対照的な結果を示しました。売上高は前年同期比で13%増の1,116億ドルとなり、市場予想をわずかに上回るトップラインの勢いを維持しました 。しかし、調整後の一株当たり利益(EPS)は4.08ドルにとどまり、市場のコンセンサス予想である4.45ドルから4.48ドルを大幅に下回りました 。この利益の失望は投資家の信頼を揺るがし、決算発表後に株価は4%以上急落し、年初来の下落幅は40%を超えました 。

企業概要:デュアル・ビジネスモデル
UNHは、米国および世界最大のヘルスケア企業の一つであり、その事業モデルは、相互に補完し合う二つの主要セグメントから成り立っています。一つは健康保険事業を担う「UnitedHealthcare」、もう一つはヘルスサービス事業を担う「Optum」です。
UnitedHealthcareは、主にプレミアム収入を基盤として、多様な健康保険プランを提供しています。一方、Optumは、ヘルスケア業界全体を対象とした広範なサービスを提供しています。
このデュアル・ビジネスモデルは、同社が多岐にわたる顧客層とヘルスケアエコシステム全体にサービスを提供することを可能にしています。
主要事業セグメント別分析
UNHの財務パフォーマンスの裏側を理解するために、二つの主要セグメントの業績を個別に分析しました。両セグメントとも、対前年比でマイナスの成長となっています。
表1:2025年第2四半期 主要事業セグメント別 業績詳細
セグメント名 | 売上高 (Q2 2025) | 営業利益 (Q2 2025) | 営業利益率 (Q2 2025) | 営業利益率 (Q2 2024) | 前年比変化 (%) |
United Healthcare | $861億 | $21億 | 2.4% | 5.4% | -3.0 |
Optum | $672億 | $31億 | 4.6% (計算値) | 7.2% (計算値) | -2.6 |
収益性圧迫の根本原因:短期的な逆風の深掘り
UNHの利益性圧迫は、単一の要因ではなく、複数の外部環境的・規制的要因が同時に作用した結果として分析できます。これは、同社のビジネスモデルが、広範な市場トレンドと規制的変化に対して一定の脆弱性を持つことを示唆しています。
第一の要因は、医療サービス利用率の急激な上昇です。メディケア・アドバンテージにおける医療費トレンドは、価格設定時の予想5%を大幅に上回る7.5%に達しました。同様に、メディケア補完保険のトレンドは11%超、コマーシャルグループ保険も11%近くに達しており、メディケイドの行動医療トレンドは20%にも及んでいます。これらのコスト増は、単に医療費単価が上がっただけでなく、医療サービスの利用頻度や、提供されるサービスの量・種類・強度が増加したことに起因します。
第二に、規制および政策的な逆風が挙げられます。特にメディケア・アドバンテージのV28リスクモデル変更は、Optum Healthに3年間で110億ドルもの財政的逆風をもたらすと推定されており、すでに70億ドルが顕在化しています。また、メディケアからの資金削減も利益を圧迫する要因となっています。さらに、連邦司法省(DOJ)による調査など、法的・規制的な圧力も増大しており、不確実性を高めています。
経営陣の対応と2026年以降の回復シナリオ
2025年第2四半期決算は、UNHが長期的な成長の道筋を再構築するための「戦略的リセット」に着手したことを示唆しています。経営陣は、2025年通期ガイダンスを大幅に下方修正し、調整後EPSを少なくとも16.00ドルとすることを発表しました。これは、Q2の損失を補填できるという見込みがないことを認めた上で、将来的なリスクを完全に反映させた保守的な予測へと切り替えたことを意味します。この措置は、市場や投資家に対し、短期的な利益の痛みを受け入れつつ、今後は規律と回復に焦点を当てるという強いメッセージを送っています。
経営陣は、コスト構造の見直しや不採算事業からの撤退を進めるとともに、2026年からの利益成長回帰を約束しました。特に、利益が大きく圧迫されたOptum Healthの長期的なマージン目標を6%〜8%(価値に基づくケアのマージン目標は5%)に再設定しました。これは、長期的な成長へのコミットメントを維持しつつも、より現実的な期待値に修正したことを示しています。同社は、AIを活用したコスト削減など、業務効率化を通じて2026年に10億ドル近くの利益創出を目指す計画も明らかにしています。元CEOのスティーブン・ヘムズリー氏の復帰も、この規律強化と回復に向けた取り組みを補強する動きとして捉えられています。
まとめ

UNHの2025年第2四半期決算は、同社が短期的な逆風と構造的な課題に直面していることを明確に示しました。メディケア・アドバンテージにおける医療利用率の急増、Optum HealthにおけるVBCモデルのマージン圧迫、そして外部環境からの複合的な圧力が、堅調なトップライン成長を相殺し、深刻な利益性圧迫を引き起こしました。経営陣は、2025年の通期ガイダンスを大幅に下方修正するという、短期的な痛みを伴う決断を下しましたが、これは長期的な利益性の再構築に向けた現実的な「戦略的リセット」と解釈できます。
しかし、この決算がUNHの成長基盤そのものを揺るがしたわけではありません。同社は依然として、UnitedHealthcareとOptumという相補的なデュアル・ビジネスモデル、業界における圧倒的な規模、そして強固なキャッシュフローという根本的な強みを保持しています。これらの強みは、短期的な課題を乗り越え、長期的な成長軌道に回帰するための土台となります。特に、高齢化社会の進展はメディケア事業への構造的な需要増大をもたらし、UNHにとって大きな成長機会を提供し続けます。
総合的に評価すると、UNHは現在、厳しい試練の時期を迎えていますが、そのビジネスモデルと市場での地位は依然として強固です。経営陣の規律と回復に焦点を当てた戦略的転換が成功すれば、同社は再び持続可能な利益成長を実現できる可能性が高いと見られます。したがって、現状は、短期的な逆風とそれに伴う株価の下落が、UNHの長期的な価値を評価する投資家にとって、魅力的なエントリーポイントとなり得ると考えられます。
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